Objet d' art

FOCUS

Thomas Serruys

A form of design that lives on today

20 世紀のデザインとアートをバックグランドとする、独学の作家トーマス・セルイス。 彼は工芸品や創作への興味から、さまざまなアプローチを追求してきた結果、2016 年に自身のアトリエを設立。ヴィンテージ家具のギャラリストとしてのキャリアを持つ彼は、多くの引き出しから自らのフィルターを通し、優れたデザインの美学や機能、素材を追求した現代に生きる作品を制作しています。

Philosophy

トーマスの創作意欲は、自らが実際に使いたいという衝動から始まります。そして、素材に対する境界線のなさが、新しいデザインの発想となることが多いのです。金属や木材、そのフィニュッシュや技術的な面に至るまで、直感的な閃きから、アイディアを膨らませ、生み出されていきます。「自分がやりたいことを自由に表現すること。また、素材の美しさと、機能のバランスがとれていることも重要です。それを見極め、膨らませ、鼓動が続くような少し緊張感のある状況を作り出したいと思っています。シンプルかつ確かなものを作りたい。また、デザインはほとんど描くことはせず、頭の中でアイディアを練り上げて、アトリエで納得がいくまで様々な形に落とし込んでいきます」。彼のものづくりにおける哲学です。自由な発想と確かな構造を持つトーマスの作品の数々は、あらゆる場面で空間を豊かにしてくれます。

Atelier Thomas Serruys

ブルージュの環状線沿いにあるトーマスのアトリエは、1864年にデュジャルダン家が綿紡績工場を設立し、後にユニオンコトニエールが買い取り、通称「Tkatoentje」と呼ばれるようになりました。彼はその歴史ある建物の修復も手掛けます。そこでは主にスチールを加工するための設備が整っており、最初のプロトタイプが生み出されていきます。

トーマスはヴィンテージデザインをコレクションするとき、その価値だけに限らず自らの直感に従って選択をします。数々のデザイナーの作品を知る中でも、特にピエール・シャポーの作品に感銘を受けたと語ります。「コレクションに強い個性を持たせ、そのデザインを完璧に仕上げていること、“S34チェア”のようなスマートなデザインで、組み立ての技術に革新的なアイディアを持っているものは、私にとって心が動くほど素晴らしいものです。 20世紀のモダニズムの時代は、デザイナーが一般大衆向けに、優れたデザインで良品質なものを大量生産しようとした時代であり、全体として非常に刺激的なものでした。実際、私は直感的に、素材と美的なプロポーションの組み合わせに惹かれるんです。ビートを刻んだ後に引きずるような、お腹の底に響くようなデザイン。初めて使う素材や、今までなかった工芸品へのアプローチ、あるいは過去に“なかった”ものを探しているのです」。その言葉が示す通り、彼の作品は合理的・大衆的でありながら美しく、現代を生きるデザインの形を妙実に捉えています。

DATA Stool

余計なものをそぎ落としつつ、シンプルになりすぎない絶妙なバランスの“DATA stool”は、ヴィンテージのマスターピースに囲まれた中でも、現代的な魅力を放ちます。スツールはいくらあっても良いという考えから、日常的に使える機能的な、無垢の木のスツールを自らの手で作りたいと考えたことから生まれました。柔和なエッジの円形の座面、長方形の空洞を持つベースなど、基本的な幾何学的モチーフをベースに構成されています。“ DATA”という名前は、このスツールが、データが主要な資源であると考えられている時代に考案されたことを由来にしています。このハイテクな時代に、シンプルな木製のスツールを必要とし、それに座りたいと思うことは面白いことだとトーマスは話します。また、サイドの切り替えしは、台形にする前のこのスツールのベースの名残であり、技術的であると同時に、美的なものでもあることから残されました。中心の空洞は、スツールにダイナミックさを与え、特定の方向にスツールを回転させることができるようにするため、そして光と影を生み出すために考案されました。

About the “SP” series

SPとは、“シェイプド・パイプ”の略で、シリーズの第一弾として生み出されたのはSPC Chairでした。一本のスチールパイプを一回の動きで曲げて、椅子をデザインするアイディアから考案されました。建築用として使われることが多い亜鉛メッキ鋼板を用いたアウトドアチェアを欲した彼は、持ち前のフットワークを活かし、様々な椅子を探した結果、自ら制作することに決めました。「私は亜鉛メッキの経年変化をとても素敵に感じていて、それで家具を作れば何十年も使えるし、より美しくなっていくだろうと思いました」。

SPC Chair

屋外での使用を前提としたずっしりとした質量と、金属の表情が美しい、無駄のない凜とした佇まいのSPC Chair。チェアは後ろから見ると、座面が宙に浮いているかのように見えますが、しっかりと体を預けることができる、考え抜かれた構造をしています。中心のスリットはテーブルへ収納する用途以外にも、横並びにスタッキングができるようにデザインされており、その姿も素敵な作品です。

SPT Table with SPS Stool

SP series End Parts

とても強力でアトリエでカスタムメイドされているエンドパーツ。亜鉛メッキとグリーンのコンビネーションは彼のお気に入りから。グリーンのErtalonは、特に丈夫だそうで、加工がしやすく、椅子やテーブルを使うときにも弾力性があることから採用しています。

A form of design that lives on today

トーマス・セルイスは実用的で長く愛用できるものが、どういったものであるかを、淘汰されることのない、過去の名作から自然に感じ取っています。それでいて彼の作品はあくまでそのレプリカではない、現代を生きるデザインの形を確実に具現化しています。それらは華美で派手なものではありませんが、彼の持つ哲学に作品を通して触れることができ、使用者に新たな感覚を芽生えさせてくれます。トーマスは、「建築家やコレクターはもちろんですが、まだ若く、デザインを愛する人が最初に購入する作品であったら嬉しく思いますし、同じような考えを持つ人たちが作品を購入してくれることに喜びを感じています」と話してくれました。今後はSPシリーズ、DATAシリーズを発展させていくことはもちろん、様々な作品の制作に意欲的に取り込みたいと語るトーマス。すでに世界的に評価を受け始めている彼の作品を、是非手にとって体感していただければと思います。